─夜
コ「…雄二様。…雄二様。起きてください。」
コクヨウは雄二の肩を揺する。
雄「…ん。」
雄二はゆっくりと目を開ける。
コ「…おはようございます。目は覚めましたか?」
雄「…ああ。」
雄二はあくびを噛み殺すと目を擦る。
コ「…儀式を始めますから顔を洗って目を覚まして来て下さい。」
半分寝ぼけてる雄二に呆れたコクヨウが川の方へ促す。
雄「んー。そうするー。」
コ「しっかり起きてくださいね。」
若干不安になったコクヨウが念を押す。
雄「おー。まかせろー。」
そう答えると雄二は川の方へフラフラと歩いて行った。
─数分後
雄「よし。目はしっかり覚めたぜ!」
コ「では始めましょう。雄二様は魔法陣の中央に立ってください。」
コクヨウの言葉に従い雄二は魔法陣の中央に立つ。
コ「これより結界を張ります。結界が完成しましたらこの古文書の『放珠』の術式を唱えてください。」
コクヨウは説明しながら古文書を手渡す。
雄「わかった。始めてくれ。」
雄二の言葉にコクヨウは頷くと印を組み目を閉じる。
コ「大いなる大自然に散らばる数多の精霊よ我が声に応えよ。」
コ「悠然なる大地よ、清涼なる風よ、勇猛なる炎よ、麗瓏なる水よ。」
コ「この世界を創る全ての元素よ我が声に応えその力を示せ。」
コ「『四方聖域』!」
コクヨウの言葉と共に魔法陣の外周を囲む光の壁が現れる。
コ「雄二様、結界は完成しました。始めてください。」
雄「お、おう。『北方の守護神の名において命ずる!』」
雄二の言葉に応え玄甲珠が光を帯びる。
雄「『我が魂の波動を受けて悠久の封を解き、目覚めよ!神器【武砕拳・亀甲手】!』」
雄二が唱えるたびに玄甲珠の光はさらに強くなる。
雄「『放珠』!!」
玄甲珠から放たれた光が炸裂し四方八方に飛び散り結界に当たって乱反射を繰り返す。
雄「どうなってるんだ?!亀甲手が出てこねぇ!」
コ「雄二様、落ち着いて!集中しないと暴走します!」
雄「落ち着くって、どーすんだよ!」
コ「光が集まって亀甲手になる姿を思い描いてください!」
雄「わ、わかった!」
雄二は目を閉じ亀甲手の形を頭の中で思い描く。
炸裂した光は徐々に雄二の回りに集まり、具現化し始める。
コ「…その調子です。」
─ペキッ
コクヨウの背後で木の枝が折れるような音がする。
コ「…えっ?!」
「グオオオォォォーー!」
コ(…しまった!異形なる者がきてるなんて!)
その声に雄二も異形なる者の接近に気付き目を開ける。
雄「コクヨウ!」
「ガアァァァァーー!!」
昼間遭遇した異形なる者より二回りほど小さい猿のような体躯をした異形なる者が二体コクヨウに襲い掛かる。
コ「…っ!」
コクヨウは反射的に目を閉じる。
雄「コクヨォーー!!」
─ガキィン!
しかし、異形なる者の拳がコクヨウに振り下ろされることは無かった。
コクヨウが恐る恐る目を開けると目の前には信じられない光景が広がっていた。
コ「こ、これは『大地の盾』?!」
異形なる者が振り下ろした拳はコクヨウの目の前に現れた岩の盾に阻まれていた。
雄「コクヨウ!結界を解け!」
コ「え?は、はい!」
コクヨウが印を解くと魔法陣を覆う光が消滅する。
雄「北方の守護神の名において命ずる!悠然なる大地の精よ!我等に仇なす者を封じる網となれ!」
雄「地精霊式神術・第弐行の一節!『蔓草の呪縛』!」
雄二の言葉に応え異形なる者の足元の草が足に絡み付く。
雄「下がれ!コクヨウ!」
コ「は、はい!」
コクヨウが退くのと同時に雄二は大地の盾を解き突進する。
雄「ハッ!」
雄二は右の異形なる者の顎を突き上げるように左掌底を叩き込む。
「ギャァァ!」
雄「コクヨウ!『破邪の石槍』で追撃!」
コ「はい!我、北方の守護神が巫女コクヨウの名において命ずる!悠然なる大地の精よ!魔を突き破る刃となれ!」
雄「狙いは眉間だ!」
コ「地精霊式神術・第弐行の四節!『破邪の石槍』!」
コクヨウの言葉と共に地面から槍状の石が吹き飛んだ異形なる者を追撃する。
「グオォォ!」
額に石槍が刺さると異形なる者は動きを止める。
雄「消えろー!」
裂帛の気合いと共に雄二は動きを止めた異形なる者に向かって突進する。
そのままミゾオチに貫手を突き出すと貫手は異形なる者の体を貫通した。
異形なる者は声を上げる事もなく光の粒となり霧散した。
その様子を見届けることなく、雄二は即座に貫手を引き抜き跳躍する。
左で動きを封じられた異形なる者に背後上空から襲い掛かる。
雄「オォォーー!!」
そのまま脳天に踵を叩き付ける。
「ギャァァァァーー!」
異形なる者は断末魔の悲鳴をあげると同じく光の粒となり消滅した。
雄「…無事か?」
コ「は、はい。」
雄「ならいい。やれやれ、元々鈍いヤツがさらに鈍くなりやがったな。」
コ「…雄二様?」
雄「ったく、鈍臭い主を持つと苦労が絶えねぇな。」
心底ウンザリしたようにため息をつくと言葉を続ける。
雄「まぁ守護神として人を守ろうとする気持ちだけはあるようだし、俺のところに来たらシゴくとするか。」
コ「…まさか?!」
雄「っと、いくら四方聖域の力を利用したとしても、封印の解けない現状じゃそろそろ限界だ。」
コ「封印が解けない?」
コクヨウの問いかけに答えず雄二は言葉を続ける。
雄「巫女よ。そなたには世話かけるがこの馬鹿を頼むぞ。」
雄二はそう言うとそのまま気を失い倒れた。
コ「主聖霊様、お待ちください!」
コクヨウの叫びは夜の闇に呑まれてかき消された。
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