少し大きめに息を吸い、はく。


少し時間を空けて話す。


「俺、本当は海南の所に配布物配るのも続かないと思ってたんだ」


「うん」


「でも海南がな、見舞い客があんまり来ないって言ったんだけど、覚えてるか?」


「うん、ケーキいっぱい持って来てくれた時だよね」


「ああ、あん時一緒にケーキ食ったろ」


「うん」


「昔の自分を思い出してな、あれからずっと見舞いに行こうって決めたんだ」


「昔?」


「ああ、実は俺、記憶喪失になったことがあるんだ」


「・・・」


「小学校の時な、車に轢かれたらしい」


「・・・」


「轢かれたことも知らないんだ、記憶無いから」


「え?」


「記憶喪失だからな」


「・・・」


「親も友達もみんな忘れてて、ただ痛いだけだった、そしたらある女が部屋に入ってきた、聞いたらそいつが俺を轢いた女らしい」


「・・・」


「俺と親に向かって頭は下げたが謝りもしない、挙句の果てには外に出たとたん『こんなガキのせいで人生が狂った』だとさ」


「ひどいね」


「俺はあの女のせいでこんなに痛いのに、謝りもしないとはって怒ったさ」


「うん」


「学校の友達も最初は来てくれたけど、俺が忘れちまってるわけだし、来づらかったんだろうな、もう全然誰も来てくれないし、親も仕事あるからあまり来れなかったし」


「・・・」


「あの女のせいだってずっと恨んでた」


「退院したのも数ヵ月後、学校行ったって転校したみたいに知らない奴ばかり、おまけに授業もさっぱり忘れちまってるからな、大変だったよ」


「・・・」


「で、恨みばっかり募って女嫌いに転じたって訳だよ」