しばらくして家に付き、制服から私服に着替え、昼飯を食ってリザーブユアハートに跨る。

雄一郎と駅で落ち合い、阪急電車に乗り込む。

乗換えをした後、仁川駅で降りる。


「次何レースだ?」

「7Rや、ちょっとぎりぎりかもな」

「8Rからいくか」

「そやな」
人ごみにまぎれて競馬場に入っていく。

一応、JRAは、学生生徒未成年は競馬しちゃいけない事にしてるからな。

今日は小倉開催だから、モニター観戦だ。

暑いので馬券売り場の前のTVモニターでパドックを見る。

「そういや、篤は?」

「ああ、水曜に園田で記録的大敗したとかで今回参戦出来ずやってさ」

「じゃあ、例のバイトか?」

「おお、島流しや」

例のバイトとは、俺たちの家の近くのお好み焼き屋さんだ。

給料を日払いでくれるのでとても助かる。

さらに学校サイドもここのバイトなら文句を言わないのだ。

ただ、おばちゃんはちゃきちゃきの浪速っ娘で、なかなか手厳しい。

客は想像を絶するくらい多い。

さらに給料も安い。
と、三拍子揃ったバイト先だ。

俺たちの中では島流しと呼ばれている。

「土日の島流しじゃ、篤、死ぬな」

「復活してまた園田で爆死やな」

「全く、デフレスパイラルみたいなヤツだな。 じゃあ潤也は?」

「ご自慢のPCのデータが飛んで、情報が無いから来週から参戦だそうだ」

「やっぱり競馬は競馬新聞と直感と目だな」

「そーやな」

雄一郎も相槌を打つ。

「しかしお前うらやましいよなー」
とスポーツ新聞を読みながら雄一郎が話を振ってくる。

「何が?」

「美幸ちゃんだよ、まったくうらやましい」

「何で?」

「幼馴染、いい響きだ、なんて甘露なんだ」
雄一郎は独自の世界に旅立ちだした。

おさななじみ、ひらがなに直してもかわいいじゃないか」

そうか?
「英語に直したら 『OSANANAZIMI』 なんだかいいじゃないか」


それは英語じゃない。

ただのローマ字だ。

学力が無いのがもろバレだ。

「なんてーか、もう婚約者みたいなもんだろ?  いいなあ」

「アレとか? ゴメンだよ」

「かわいいじゃん、学年でも1.2を争うぷりちーさだぞ」

「そーか?」

「そうに決まってんだろーが!」

「でも怖いぞ」

「そこもまただなあ、なんてーかこう・・・あーーーわからんか?お前!!」

「わかんねえ」

「第一今日も起こしに来て貰ったんだろ、かー、俺もそんな彼女ほしーーー!!」

「彼女じゃねーっての」

「何や、余裕か?余裕ぶっこいとるんかワレ。かー、小憎らしーーーー!!」

「そんなんじゃないってばよ」

「そーいや、何で彼女作らんの?」

「いや・・・女が嫌いだから」

「は???」

「だから女嫌いなんだってば」

「なんで」

「まあ、色々あってさ、近づかれるのも苦手」

「ふーん、俺なんかむしろ、満員電車は女の近くと決めてるがなあ」


それはお前の趣味だ。

でもそれ以上雄一郎は聞かなかった。

そうだな、どっちかって言ったら・・・

「でも、美幸ちゃんなら別に大丈夫なんやろ?」

「まあな、幼馴染だから。それに第一、女と思ってない」

「それ、本人に言ってやるなよ」

「昔言った」


その後、病院にも行った。

「お、レース始まんぞ」

・・・・・・・・・・・・・・

その日は雄一郎の一人勝ちだった。

俺も勝ちはしなかったが、負けもしなかったので明日も勝負できる。

その後、篤の居るお好み焼き屋に閉店間際に行き、三人で競馬予想をし、帰った。

次の日も雄一郎と競馬。

今日はどちらも負けてしまったため、直帰。

明日も補習だ、さっさと寝るか。


・・・・・・・・・


翌朝。

今日は足とわき腹が痛い。

また起こしには来てくれてたようだ。

一体今日はどんな起こし方をしたんだか。


・・・時間が非道い事になってる。

アタマのセットもメシも何も出来やしねえ。

とりあえず着替えてリザーブユアハートに跨る。


「ぬおおおおおおおお!!」

気合と共に漫画のように足が回転して見えるくらいに漕ぐ。

坂の前の信号。

あ!歩行者用が点滅してる。

さらに気合を入れ、漕ぐ!

何とか通過し、そのままの勢いで坂を上る。


・・・

な、何とか間に合った。

「お、今日も間に合ったか、重役」

また長谷川が声を掛けてくる。

「うるさい」

「お前なんで普段遅刻するのに、補習の時は遅刻せんように頑張るんだ?」

・・・そう言やなんでだろ?

教室に入り、いつもの様に美幸と口論をする。

今日の起こし方は、美幸曰く

「声を掛けたが起きなかったので、太ももにエルボーで筋肉つぶしをしたうえ、レバーブローを6発入れてあげた」だそうだ。


雄一郎よ、これを聞いてもまだかわいいといえるのか?

授業が始まり、今日もくだらない授業を昼まで聞かされる。

・・・ふあー、終った終ったっと。

明後日まで補習受ければ後は夏休みだ。

もう少しの辛抱だ。


自分に言い聞かせて帰宅する。

帰りの道すがら、例の信号でまた引っかかった。

きょろきょろ。

回りを気にしながら病院を見上げる。



・・・今日は見えないか。

そーだよなあ、この間のは偶然だよなあ。

少し残念に思いながら、再度の偶然を期待しつつ、今日を、そして二日後まで

何も無く一日一日を終えていった。


そして俺の夏休みが(普通の学生より遅く)8月1日から始まった。

いつもの様に、シングルな夏休みが。

美幸の「これでやっと起こしに行かなくていいや」と言う毒舌と共に。