第六章
子供と俺と武庫川と


文化祭も大盛況のうちに終わり、俺たち競馬同好会もどうやら市民権を勝ち得たらしい。


そりゃそうだろう、あれだけの人員動員して不人気同好会のままじゃちょっと寂しすぎる。


そうは言っても実はひっそりやりたい俺たちの心境もあって微妙な感じだ。 


なんせ俺たちは高校生なのに競馬を趣味とする変わり者。
競馬以外で騒がれるのはちょっと以上に苦手なのだ。


目立ってくると教師からも当然


「おい星野、次のテスト大丈夫か?」


「進路決まったのか?」



色々困るわけだ。


「目立つってのも困りものだな」


同好会室でそうみんなに話しかけた。


「全くやで、みんな顔見たら進路だテストだっていいやがる、俺には俺の道があるっちゅーねん!」


「ほう、雄一郎進路決まってたのか?どうするつもりなんだ?」
篤が興味深そうに雄一郎に質問する。


「俺か?政治家になって大金持ちになるんや!」


「進路と夢と妄想は違うんだぜ、ダブりが見えてる奴に政治家になられてたまるかよ」


潤也が冷ややかに言い放つ。


「潤也!もう少し愛を持って優しく言ってくれ!」

雄一郎は図星を指されて涙目だ。


「しかし天斗も大丈夫なのか?ダブリ決まりかけてるんじゃないのか?」


「そうなんだよなー、来年はお前らを先輩って呼ばなきゃならんかも知れんぜ」


「まだ何とかなるんだろ?決まったわけじゃないんだろ?」


「ああ、確かにな、まだ決まってはないけど」


オール85点以上とか不可能に近いぜ。


「なあ潤也、テスト代わってくれや!」


「馬鹿か、クラスも違うのにどうやっても無理だろ!」


「なんかいい方法無いかなーー」


雄一郎は頭を抱えている。


そんな切なる悩みを持ったテスト前の土曜日。


悩んでたって競馬に行くんだから俺たちも馬鹿だな。


同好会員全員で競馬場に向けて武庫川沿いを自転車で走っていた。


「こんな寒いのに子供釣りしてるわ」


雄一郎が釣りをしている子供たちを指差した。


一人が何か釣り上げたらしく、もう一人は網を持って上がってきた魚をすくい上げようとしていた。


「お!なんか釣れたみたいだぞ」


「へー武庫川って魚釣れるんだな〜」


「当たり前やんけ!魚くらいおるわい!」


その時


「おい、釣ってた子供が居ないぞ!」

潤也が大きな声を出した。


子供たちに目を戻すと確かに一人居ない。


網を持った子供が川に向かって叫んでいる。


「おい!溺れてる!」


そう言って無意識に俺たちはそこに走り出していた。


「とんちゃん!とんちゃん!!」


泣き叫ぶ子供。


泣いていた子供が意を決して川に入ろうとしている。


「馬鹿野郎!そこで待ってろ!」


俺はその子供を制して冬の川に飛び込んだ。


「潤也!救急車!!篤はそこで見といてくれ!」


そう言って雄一郎も飛び込んでくる。


昨日降った雨のせいで川が少しだけ増水している。


少し流されたあたりで無事子供を捕まえた。


「天斗!俺に捕まれ!!」


篤が投げたジャンバーを雄一郎が掴み、手を思い切り伸ばしている。


俺は子供を放さないように必死で泳ぎ、雄一郎の手を掴んだ。


何とか三人で子供を引き上げた。


潤也が呼んだ救急車も程なくして到着し、子供を救急隊員に任せた。


「君たちも一緒に」


「いや、大丈夫ですから!大丈夫ですから!!」


救急隊員はそう言うが特に病院嫌いの俺には断る以外の選択肢は無かった。


隊員に名前と連絡先を聞かれたから仕方なく代表として雄一郎が自分の家の電話番号を伝え、救急車が走り出すのを見届けて俺たちもその場を後にした。


てかなんか人だかり出来てて照れくさかったってのが一番の理由だ。