第一章
『何でもない日常』
─次のニュースです。
日本考古学界の第一人者と言われる、[荒巻 研三氏(43)]が昨夜未明、行方不明になる事件が起こりました。
警視庁の発表によりますと、荒巻氏は昨夜20時頃、「ちょっと調べ物がある」と助手を帰し一人研究室に残った以降、行方がわからなくなったとの事。
家族の証言によると、昨夜0時頃、自宅に電話で「今日は泊まりになる」と連絡を最後に、
足取りが掴めていないとの事です。
研究室は荒らされたような形跡があり、
警察はなんらかの事件に巻き込…─
TVからはありがちなニュースが流れる中、母親の声が響く
母「雄二ーー!!あんたいい加減起きないと遅刻するわよー!!」
…しーん。返事はない。
…─ブチッ!!
という音と共に母親は階段を駆け登る。
ダダダダダダッーーー!!!
バーンと勢いよくドアを開けるとベットの上で布団に抱き付き、だらしない顔をした馬鹿息子の姿が目に入る。
母「いい加減おきんかー!!こーの、馬鹿息子がーーー!!!」
─ドボォ!!
という鈍い音と共に母の愛は、脇腹にめりこんだ。
雄「ぐはぁ!!」
母「早くおきんかい!!」
雄「…だからって、目覚ましがわりにボディーブロー叩き込むか?」
雄二は脇腹を押さえながら抗議する。
が、母は笑顔で答える。
母「遅刻しないように起こしてあげてる、母のありがたい愛を噛み締めなさい」
…決して目は笑ってない。
その鋭い眼光を前に彼の本能が危険を知らせる。
『逆らえば殺られる』
雄「…Yes mother」
母「よろしい、さっさと着替えて下りてきなさい」
母は部屋を出ていった。
彼の名は〔北川 雄二〕普通の高校二年生である。
ちょっと普通と違う点をあげるなら、彼の家は《北川流古武術》の道場を開いている為、母親が異常に強い事だろう。
雄「ったく、どこの世界にかわいい息子に稲妻みてーなボディーブローをブチ込む愛があんだよ。」
ブツブツ文句を言いながら着替えを済ましリビングに下りる。
いつもなら朝稽古を終えて朝食をとっているはずの兄と祖父がいない。
雄「…あれ?兄貴とじっちゃんは?」
テーブルにつき、トーストをかじりながら母に尋ねる。
母「富士の樹海で山篭もりよ」
まるでコンビニに行ってるかのようなノリで母は答える。
雄「げっ!まぢか?平成の日本で時代錯誤もいいとこだろ?」
母「何いってるの?宗家の男子なら当たり前じゃない。あんたも、高校卒業したらやるのよ?」
その一言に雄二は青くなる。
雄「イヤだ!俺はフツーに大学いってフツーに生きるの!」
母「冗談よ。祐樹が継ぐからあんたはフツーの生活が送れるわよ。」
その一言に雄二はホッとするがある疑問がでてくる。
雄「ちょっとまて、兄貴が継ぐのは決まってたのか?」
母「そうよ。祐樹が小学校卒業したときだから、あんたが小二に上がる時ね。」
母はサラっと答える。
雄「じゃあ、中学まで俺も稽古させられてたのは?」
母「おじーちゃんの道楽」
雄「じゃあ、高校上がってから勉学を疎かにしない為に、稽古をやめたのは?」
母「そんなの嘘よ。おじーちゃんが飽きたからに決まってるじゃない。」
体の奥から殺気が込み上げ、その殺気は全てを灰にする雄々しき火柱となって燃え上がる。
雄「…あのクソジジィ!ぶち殺す!」
しかし、母の冷静な一言がロウソクでも消すかのように、いとも簡単に鎮火させる。
母「やめとけばー?おじーちゃん老いたとはいえ、北川流古武術史上最強の呼び声高い、十三代目宗家よ?
後継者の祐樹ならともかく、あんたじゃ万に一つも勝ち目ないよ?
下手に手を出してまた稽古させられても、あたしゃ知らないよ?」
雄「…うぐっ!」
母「そんな事はいいから、早くご飯食べて学校行きなさい。遅刻するよ。」
雄「へーへー、わかりましたよ。」
残りのトーストをコーヒーで流し込むと席を立った。
雄「じゃ、いってきます。」
母「いってらっしゃい」
家を出てしばらくすると後ろから呼ぶ声がする。
「おーい、ゆーじー!」
朝もはよから近所の迷惑も気にせず、大声で人の名前を呼ぶヤツは一人しかいねぇ。
雄「うるせー!大声出すんじゃ…っ!」
振り返ると、目の前に鞄が迫ってる!
雄「どわー!!」
上体を反らしかろうじて鞄を避ける。
─スカッ!
「あり?」
声の主は予想外の事態に困惑する。
「雄二が避けた。あれに、反応できたんだ?」
…反応出来ない事が前提で襲ってきたんか、コイツは?
雄「沙織!てめーイキナリ何しやがる!」
沙「何って。挨拶♪」
雄「挨拶で頭蓋骨割る気か?」
沙「まっさか〜!か弱い女子高生がそんな事出来るはずないじゃな〜い。」
…いや、コイツなら頭蓋骨を粉砕するくらいやれる。
雄「今の発言、全国の女子高生に失礼だ、謝…っ!」
沙「んだと!この野郎!」
─ドボッ!
言うが早いか手が早いか、沙織のショートフックは雄二の脇腹にメリ込んだ。
雄「ぐはっ!」
コイツやっぱり世間一般の女子高生とは掛け離れてやがる…
彼女は〔東 沙織〕雄二の幼なじみで高校二年。
幼少の頃より北川流古武術を習い、主に素手による体術より三節棍を主体とする棒術が得意。
…なはず。
雄(なのに、徒手空拳を習ってた宗家の次男より、素手の格闘がつえーってどーゆーことだ?)
そんな事を考えながら脇腹を抑えてうずくまっていると、後ろから聞き覚えのある声がする。
「…雄二、東、おまえら朝から何やってんだ?」
振り返るとそこには、見知った顔が呆れた様子で立っていた。
雄「おー貴志、聞いてくれよ。じつは沙織のヤツが((((;゜д゜))))ガクガクブルブルでよー。」
彼は〔西ノ宮 貴志〕雄二の高校入学以来の悪友である。
ルックス良し、運動神経良し、成績良しの優良三冠王くせに、
素行不良、性格極悪、女に手を出すのは異常に早いという悪徳三冠王も手中に収める奇特ヤツだ。
貴「それを言うなら、かくかくしかじかだろ。」
雄二のボケに的確なツッコミを入れると、沙織と雄二を見比べ納得する。
貴「…なるほど、ガクガクブルブルもあながち外れちゃいないか?」
沙「どーゆー意味よ!」
貴「ん?ドメスティック・バイオレンスも程々にしねーと、旦那に逃げられるってこった。」
貴志はニヤリと笑う。
沙「な、な、ななななな何いってんのよ!!」
雄「ドメ…バイオ?何だそれ?」
二人の反応を見て貴志は愉快そうに笑う。
貴「あっはっはっ!相手が鈍いと苦労するな?頑張れよ、さ・お・り・ちゃん♪」
絶句してる沙織の肩をポンと叩くと、貴志はさっさと先に行った。
雄「何わけわからん事言ってんだアイツ。なぁ、沙…っ!」
雄二が沙織に問い掛けようとすると、拳が飛んできた。
─バキィ!
沙織の右フックは的確に雄二の左こめかみを捉らえていた。
雄「ギャイン!」
沙「知らないわよ!このバカ雄二!」
捨て台詞を吐くと、地面にはいつくばる雄二を放置したまま沙織は貴志を追って走りだした。
沙「西ノ宮!待ちなさいよ!」
雄「なんで、俺がこんな目に〜。」
次