〜十分後〜

雄二は学校にたどりついていた。
雄「やっと着いた…。学校がこんなに遠く感じたのは始めてだ。」
一人呟き昇降口へ向かうとよく知った人物に出会う。
雄「よっ!美咲、朝練か?」
弓道着を着たポニーテールの小柄な女の子が振り返ると、満面の笑みで近寄ってくる。
美「雄二お兄ちゃん!おはよ!」
彼女は〔南条 美咲〕一つ下の幼なじみで妹みたいなものである。
一人っ子なため昔っから甘えん坊だ。
雄「…お兄ちゃんはやめろよ、ガキの頃とは違うんだから」
美「うー、今さら無理だよぉ〜」
雄「…おめー、直す気ねーだろ?」
美「うん!」
美咲は真顔で頷く。
雄「…はぁ」
美「ため息つかないでよ〜」
雄「沙織のせいで疲れてるのに、追い撃ちをかけるお前が悪い」
その一言に美咲は反応する。
美「さっき沙織お姉ちゃんに会ったけど、機嫌悪かったよ?雄二お兄ちゃんなんかしたの?」
雄「俺は被害者だよ」
雄二は朝の出来事を全て話した。
雄「…ってワケだ。」
美「それは、雄二お兄ちゃんが悪いよ…」
雄「なんでだ?」
美「乙女心がわかってない。沙織お姉ちゃんカワイソー。」
雄「どーゆーこと?」
美「もー!そんなの私の口から言えるワケないでしょ!」
美咲の抗議も空しく、雄二は理解できていない。
雄「わからん!お前の話はサッパリわからん!」
美「もー、そんなんじゃお兄ちゃん達の将来が、私は本気で心配だよぉ〜」
美咲は本気で肩を落とすとため息をつく。
美「成績悪いし」
雄「うちは、エスカレーター式で大学行けるだろ」
美「…その前に三年に進級できるの?」
雄「…ぐっ!」
美「部活もまともにやらないし」
雄「だって、だりぃ。」
美「浩輔お兄ちゃんと空手やればいいのに」
雄「やだよ、ただでさえじっちゃんの稽古で格闘技に嫌気がさしてんのに。」
美「あの空手の才能を活かさないのは惜しいって、浩輔お兄ちゃん嘆いてたよ?」
雄「ちっ、浩兄め、美咲にまでボヤいてんのか。楽天のノムさん顔負けのボヤキ将軍だな。」
浩兄こと〔長岡 浩輔〕は一つ年上の幼なじみである。
昔から面倒を見てくれた頼れるあんちゃんだ。
美「ニブイし」
雄「だから、なんでだよ!」
美「それを私に聞くのがそもそもニブイ。少しは西ノ宮先輩を見習えば?」
雄「おれに、女好きになれと?」
美「そーは言ってないよぉ。それに西ノ宮先輩は女好きなんじゃなくて、女の子に対して鋭くて分け隔てなく優しいだけだよ。軽く見えるのはあの口調のせいだね。」
美咲の一言に雄二は驚く。
雄「意外に、貴志の事わかってんだな。」
美「まぁ、私も優しくしてもらった女の子の一人だからね。」
雄「…なるほど、お前らの件には貴志が一枚かんでたのか。」
雄二が納得したように頷く。
美「へ?お前らの件って?」
美咲は首を傾げる。
雄「あのな、お前が浩兄と付き合ってる事くらいとっくに気付いてるぞ。」
雄二が呆れたように言うと、美咲の顔は真っ赤になる。
美「えー!なんで?誰に聞いたの?」
美咲は真っ赤な顔で問い詰める。
雄「誰にも聞いてねぇよ。」
美「じゃあ、いつ気付いたの?」
雄「夏休み前に何となく。確信を持ったのは夏祭りの時。で、沙織に問い詰めたらドンピシャってワケだ。」
その言葉で美咲はさらにうろたえる。
美「な、な、夏休み前って付き合ってすぐの頃じゃない!なんで、気付いたの?」
雄「何年顔付き合わせてると思ってんだ?何となく空気でわかるわ。」
美「雄二お兄ちゃんニブイのに!」
美咲の言葉に雄二は呆れる。
雄「あのなー、なにを根拠に言ってるか知らんが、お前が浩兄を好きだった事くらい中学の頃から知ってるっつーの。」
美「えぇー!」
雄「さらに、浩兄がおめーに気があることも気付いてたよ。ニブイのはおめーだ。」
美咲の顔は真っ赤を通り越して青くなる。
美「な、な、な!」
もはや美咲は言葉もでない。
雄二はさらに追い撃ちをかける。
雄「そんな調子だからいつまでもくっつかねーんじゃねーかと思ってんだが、貴志のおかげだったんだな?ようやく納得したよ。」
美「じゃ、じゃあ、気付いてて三ヶ月以上も気付かないフリしてたの?」
雄「お前らが何も言わないなら、無理に聞く必要もないしな。」
そこまで言われて美咲は観念するしかなかった。
美「うー。わかった、訂正するよ〜。雄二お兄ちゃんはニブくないよ。」
雄二は勝ち誇った顔で踏ん反り返る。
雄「ようやくわかったか?」
美「自分の事以外はね!」
雄「だから、それはどういう意味だ?」
美「それは、私の口からは言えないって言ったでしょ?…ん?」

─キーンコーンカーンコーン─

雄「お、予鈴だ。」
美「あー!私まだ着替えてないぃー!遅刻しちゃうよぉー!」
美咲は急いで部室に向かう。
雄「まぁ、頑張れや。」
美「もー、雄二お兄ちゃんのせいだからね!これで遅刻したらサーティワンアイス奢ってもらうんだから!」
雄「何で俺が?そんなんラブラブな彼氏に頼め!」
美「なっ!」
─ベチャ!
慌てた美咲は豪快にコケる。
雄二はニヤニヤしながらとどめの一言を言い放つ。
雄「またまだ、初々しいねぇ。」
美「ゆ、雄二お兄ちゃんのバカー!」
美咲は逃げるように部室棟に走っていく。
雄「…やれやれ。ホント初々しいねぇ」
一転して優しい眼差しで美咲を見送り、美咲に聞こえないように呟くと雄二は教室へ向かった。