─放課後─
雄「さてと、今日も一日終わったし帰るかな」
雄二は昇降口を出ると大きく伸びをする。
「おい、雄二」
呼ばれて振り返ると浩輔が立っていた。
雄「誰かと思えばボヤキ将軍の浩兄か。」
浩「お前みたいな手のかかる弟分がいたんじゃボヤキたくもなるわ。まったく、美咲がカンカンだったぞ。」
雄「へーへー、お熱いこって」
浩「バカか。そんなじゃねー。」
急に浩輔は真面目な表情になる。
雄「な、なにがだよ?」
浩司の表情に雄二はたじろぐ。
浩「…ああ見えて、美咲は怒るとメチャメチャ恐いんだ。」
雄「…」
浩「…」
雄「…」
浩「…」
─ひゅー。
一陣の風が吹き抜ける
雄「…」
浩「…?」
雄「…ぶっ!」
雄二は思わず吹き出す。
雄「だははははは!!!」
浩「ちょ、おま、笑い事じゃねぇ!」
雄「だって、真顔で何言うかと思えば。『ああ見えて、美咲は怒るとメチャメチャ恐いんだ。』って。」
浩「マジで恐いんだぞ。だいたい、美咲が怒ってたのお前のせいなんだからな!」
雄「おいおい、空手部主将にして、『冷徹なる鬼神』の異名を持つ浩兄がなに情けないこと言ってんだ?さすがの浩兄も女が出来て腑抜けたか?」
雄二の一言に、浩輔の顔が無表情になり、瞳に冷たい光が宿る。
そこにはいつも穏やかな微笑みを絶やさない『浩兄』の姿は無く…
県下でも強豪で知られる空手部の猛者さえも、対峙すれば震え上がる冷徹なる鬼神『空手部主将 長岡 浩輔』が立っていた。
浩「…あまり私を怒らせない方がいい」
─ゴゴゴゴゴッ
浩輔から殺気が溢れ出す。
雄(やべっ!からかい過ぎた)
浩「雄二、もう一度言ってみろ。誰が腑抜けたって?」
雄「OK、浩兄、ときに落ち着け!とにかく何があったか話してみ?」
浩「…わかった。」
殺気が消えいつもの浩兄に戻る。
雄(まったく。冗談を真に受けてキレんじゃねーよ。)
浩「今日の昼休みの事なんだがな…」

〜昼休み〜
浩「美咲、おせーな。」
浩輔は一人屋上のベンチに座って美咲を待っていた。
─タッタッタッ
階段を駆け上がる足音がすると、美咲がやってきた。
美「…おまたせ。」
浩「いつもなら、先に来てるのに今日はどうしたんだ?」
美「ちょっと考え事してたら遅くなっちゃった。」
浩「…なんかあったのか?」
美「あのね、雄二お兄ちゃんに私達が付き合ってるのがバレてたんだよ〜。これからどうしよ〜?」
浩「別にいいじゃん、雄二なら。いつまでも隠せるような事でもないし、隠してるつもりもなかったしな。」
浩輔の一言に美咲は態度を変える。
美「なに甘いこと言ってるの!相手は雄二お兄ちゃんだよ?事の重大さ解ってるの?」
美咲の言葉に浩輔は呆れる。
浩「雄二だから問題ないんだろ。ウチの後輩とか、お前のクラスの男子にバレた方がよっぽどやばいよ。」
浩輔にしてみれば、空手部の後輩にバレた方が面倒だと感じていた。
なにしろ、美咲は校内でも有名な美少女である。
美咲本人の知らないうちに、本人非公認のファンクラブが設立されているくらいである。
さらに、一部生徒には有名な電脳部男子運営の学校非公認HP『学園萌えっ娘天国』で行われた生徒人気投票で、一位になり。一年生女子では初の快挙を成し遂げているのである。
(余談だが電脳部女子運営非公認学校HP『電脳生徒会』の人気投票では二年連続で西ノ宮貴志が一位である。)
そして、美咲ファンクラブの会長が空手部の二年生だというのだから、浩輔としてはこっちの方が頭が痛い問題である。

美「もー!それが甘いって言ってるのに!雄二お兄ちゃんはこの手の話題となると物凄く性格悪いんだから!」
浩「…それはないって。」
美「それがあるの!現に朝だって…」
美咲は朝の一連の出来事を話した。
美「…って事があったんだから!これから、どんどん酷くなるよぉ〜。」
浩「…別に大したことないじゃん。」
美「ふーん。あくまで雄二お兄ちゃんをかばうんだ。もう知らない!そんな浩輔お兄ちゃんにはお弁当あげない!」
美咲は駆け出すと、屋上から出ていった。
浩「えっ?ちょ、美咲さん?約束が違…。」
浩輔の言葉も空しく、屋上の扉は『バタン!』と一際大きな音を立てて閉まった。


浩「…っていうワケだ!どうしてくれる!」
雄「…とりあえず説明してくれ。それのどこが恐いんだ?」
雄二は半ば呆れながら聞き返す。
浩「バカヤロウ!お陰で美咲の手作り弁当、食いそこねたんだぞ!何回も頼んでやっと作ってくれたのに…」
浩輔は物凄く切なそうにうったえる。
雄「へーへー、そりゃ悪いことしたな。」
浩「だいたい、あの美咲があそこまで警戒するって何やったんだお前。」
雄「あー、浩兄は知らないかもしれないけど…」
雄二はそこで、口ごもる。