浩「なんだよ?言えよ。お前には言う義務がある。」
雄「…簡単に言うと『別れさせ屋』かな?」
浩「はぁ?例えば?」
雄「貴志につきまとってた女を諦めさせた。」
浩「どうやって?」
雄「架空の彼女を用意して目の前でイチャつかせた。しかも、足がつかないようにウチの道場の門下生に他校の知り合いが居たからその人の学校の演劇部の女の子に頼んでもらって。」
浩「…ずいぶんベタな方法の割には、手が込んでるな。他には?」
雄「彼氏と別れたがってたクラスメートを破局に追い込んだ。」
浩「…どうやって?」
雄「貴志の人脈フル活用して彼氏の女関係の噂、ある事ない事バラ撒いて、それを理由に別れ話を切り出しやすくした。」
浩「あまりにひどくないか?それ。」
雄「別に。その彼氏ってーのが軽い奴だったから、噂の全部が嘘ってわけじゃないよ。…誇張はしたけど。」
浩「…それだけじゃないだろ?」
雄「クラスの女の子についてたストーカーを撃退した。」
浩「まともな内容じゃないか。どうやったんだ?」
雄「ウチの道場の門下生十人くらいで囲んで『いい加減諦めて真っ当に生きるのと、二度と近づけないように両手両足粉砕骨折されて残りの人生病院で過ごすのどっちがいい?』って言ったら一発だったよ。」
浩「…それ脅迫。やり方がまともじゃねぇな。」
雄「大丈夫だよ。この件喋ったら生命保険で親孝行することになるよ?って言ったら首折れそうなくらい頷いてたもん。」
浩「それこそ脅迫だろ。」
浩輔は呆れてもう何も言えないが、聞かねばならなかった。
浩「まだ、隠してるだろ?」
浩輔にはわかってた。雄二はまだ何か隠してる事を。
なにか理由がなければ雄二がそんな行動を取るとは思えなかった。
雄「…ちっ、しつけーな。あとは沙織にラブレター出したヤツに諦めさせたぐらいだよ。それが一番最初だ。」
浩「…それは、さすがにひどいぞ。」
雄「べつに、酷いことはしてないよ。むしろ猛獣から一般人を避難させただけだよ。あんな凶暴なのと付き合ったりしたら相手が死ぬぞ。」
浩「…ホントにそんな理由か?」
雄「ああ、幼なじみが殺人犯なんかになったら笑えんからな。」
浩「…まぁ、いい。美咲がお前を警戒する理由はよくわかった。」
浩輔の言葉を否定するように雄二は答える。
雄「安心しろよ。浩兄たちに関する依頼は請けないからさ。『別れさせ屋』は依頼がなければ動かないし、依頼は選ぶ。なによりもう廃業してるよ。」
浩「なんで?」
雄「当時はむしゃくしゃしてたから憂さ晴らしにやってただけだし。今は、色々とスッキリしたから辞めたんだ。」
浩「当時に何かあったのか?」
雄「さあね。いくら浩兄でもそいつは言えないよ。スッキリはしたが解決したワケじゃないんでね。」
浩「なにカッコつけてんだ。とりあえず美咲の誤解は解いておくよ。」
浩輔の言葉に雄二は意地悪そうにニヤつく。
雄「何言ってんの?誤解を解かないと愛しの美咲ちゃんのお弁当が食べられなくて困るのは浩兄だろ?」
浩「なっ!」
雄「ケケケッ!じゃあな!」
雄二は校門に向かって走りだす。
浩「ちょ!待て雄二!」
浩輔の制止も聞かず雄二は校門を出ていった。
浩「ちっ!やっぱり性格悪いじゃねえか…。」
そう、呟くと部室に向かって歩き出した。
浩「なにが、『浩兄にも言えない』だよ。大体察しがつくって。ホント、ひねくれてニブイ弟を持つと苦労するよ。」
そう呟いたところでふと気付く。
浩「ニブくてひねくれてんのは妹もだったな。やれやれ、あの二人はどうしたもんかね…。」
そうボヤくと浩輔はため息をついた。
浩「まぁ、人の事は言えんか。まったく、俺ら四人揃いも揃って似た者同士だねぇ。」


─一方その頃─
美咲が部室棟に向かっていると、呼び止められた。
「美咲ちゃん♪」
美咲は聞き覚えのある声にうんざりしながら振り向く。
美「…はい。何でしょう神楽先輩。」
「おっ。やっと名前覚えてくれたんだね?うれしいよ。でも、神楽先輩なんて他人行儀な呼びかたじゃなくて、涼でいいよ。」
彼は〔神楽 涼〕空手部の二年生エースで美咲ファンクラブの会長である。
美「いえ、先輩を呼び捨てにするなんてできませんから…」
涼「本人がいいって言ってるんだから気にしなくていいのに。もしくは、長岡先輩や北川を呼ぶときみたいに『お兄ちゃん』でもいいよ。」
美「…っ!」
涼の言葉に美咲は涼をにらむ。
涼「冗談だからそんなに睨まないでよ。笑った方がカワイイよ♪」
美「…私これから部活ありますから。用がないなら失礼します。」
美咲は涼が苦手だった。出来ればさっさと切り上げたかった。
しかし、それができるほど美咲は器用ではなかったし、それで引き下がるほど涼はあっさりした性格もしていなかった。
だからこそ美咲は涼が苦手なのだが。
涼「まぁまぁ、そう言わないでよ。今度の土曜日ヒマ?映画のタダ券あるんだけど一緒に行かない?」
美「…部活がありますから。」
涼「弓道部は午前中だけでしょ?空手部も午前中だけだしちょうどいいじゃん。行こうよ?」
美「えっと、でも…」
美咲はなんとか理由をつけて断ろうとするが、適当な理由が思いつかない。
涼はそれを見透かしたように次の手を打つ。
涼「都合悪い?なら、別に土曜日じゃなくて日曜日でもいいよ。」
美「日曜日は、その…」
涼は美咲に言い訳する隙を与えない。
涼「日曜日は確か弓道部休みだったよね?ウチは午後からだから、午前中空いてるんだ。映画みてその後ご飯でもどう?駅前にイタリアンで美味しいランチメニューやってるお店があるんだよ。」
美「えっと、その…」
美咲がハッキリ断らないのをいいことに、涼は勢いで押し切ろうとする。
涼「じゃあ、日曜の九時半に駅前でいいかな?」
そこまで来たところで美咲は拒否の意思を示す。
美「そんな、私行くなんて一言も…」
しかし、涼は美咲が言い終わらないうちに切り返す。
涼「なにか、予定でもあるの?あるならしょうがないけど、無いなら断る理由もないと思うけど?」
美「えっ、それは…」
「あーら、残念ねー。美咲は私と約束があるのよ♪」
涼「…っ!」
涼が振り向くと後ろには沙織がパックのイチゴ・オレを飲みながら立っていた。