涼「…東っ!」
美「沙織お姉ちゃん!」
美咲の顔に安堵の表情が浮かぶ。
沙「神楽くーん。ごめんねー。今度の土曜は美咲、ウチに泊まりに来て、日曜はそのまま二人で買い物に行くのよー。」
沙織はわざとらしく、謝るようなそぶりで涼に説明する。
涼「…それなら、仕方ない。美咲ちゃんまた今度ね♪」
涼は十中八九嘘であることに気付いていたが、敢えて引き下がる。
涼(別に無理しなくてもチャンスはいくらでもある)
そんな事を考えながら沙織の横を通り過ぎていく。
─ヒュン!
その刹那、涼の右頬を何かがかすめる。
涼「…っ!」
慌てて振り返ると、いつの間に鞄から取り出したのか、沙織の右手には愛用の三節棍が握られていた。
涼「…東、何の真似かな?」
涼の問い掛けに沙織は、左手に持ったイチゴ・オレのストローをくわえると『ぢぅ〜』と音を立て飲み干す。
そのまま空パックをゴミ箱に放り投げる。
沙「ん?一つ言い忘れてたよ。いつまでも美咲にまとわり付いて、美咲を泣かすような真似したら…。」
涼「…したら、何かな?」
沙織は涼の方に向き直ると口を開いた。
沙「あんたの頭蓋骨叩き割るよ。」
涼「御忠告どーも。まぁ泣かせてしまうのは僕の本意じゃないから、安心してほしいね。それと、女の子がそんな発言するのはあまり感心しないね。」
そう言い残すと、涼は校舎の方へ歩いていった。
涼が居なくなったのを確認し美咲は胸をなでおろす。
美「沙織お姉ちゃ〜ん、ありがと〜。」
その言葉で、沙織は美咲に向き直ると美咲を睨む。
沙「あんたねー。たまたま、私がいたからいいようなものの、イヤならイヤでビシッと断んなさいよ。」
美「はうっ!そ、そんな事言われても〜、何て言ったらいいか解らないんだもん。」
沙「そんなんだから、あんなのにつきまとわれるのよ!」
美「うー。ごめんなさい〜。」
美咲の態度に沙織はため息をつく。
沙「はぁ…。あたしに謝ってもしょうがないでしょ?困るのはあんたと浩兄なんだから。ヘタにこじれて浩兄と別れる事になっても、あたしゃ知らないよ?」
美「まさか。私達はそんな事でこじれたりはしないよ〜。」
美咲は照れながら「えへへ」と笑う。
そんな、美咲を見て沙織は、ますます呆れる。
沙「あんたねぇ、ノロケて照れてる場合じゃないよ?あたしは真剣に言ってんの!」
美「へ?なんで?」
沙「…わかった。一からわかりやすく説明してあげる。」
美「う、うん。」
沙「さっきみたいに、神楽に迫られてあんたキッパリ断れないでしょ?そうなったら、いつかは断り切れなくて『一回くらいなら…』でデートって流れになっちゃうワケ。」
美「…うん。」
沙「そーなると、浩兄あれで結構そうゆうの気にしちゃうから、それが元で破局は有り得るよ?」
沙織の言葉に美咲は青くなる。
美「そ、そんなのヤだよぉ〜!やっと、やっと、昔からずっと好きだった浩輔お兄ちゃんの彼女になれたのにぃ〜!」
沙「なら、頑張って断ることね。」
美「で、でも、どうやったらいいの?」
美咲は半ベソで沙織に問い掛ける。
沙「そんなの簡単よ。さっきみたいに誘って来たら一言『ウザイ!話し掛けんな!』って言えば一発よ?」
沙「そ、そそそんなの無理だよぉ。」
美咲は慌てて否定する。
沙「なんで?一発で撃沈よ?試しにあたしに言ってみ?」
美「うー。わかったよ。」
美咲は『コホン』と咳ばらいをし、大きく息を吸うと沙織をキッと睨み
美「ウザイ!話し掛けんなぁ〜!」
と、一気にまくし立てた。
美咲は胸の前で両手をにぎりしめ、『ハアハア』と肩で息をしている。
沙「…」
美「…」
沙「…」
美「…?どうしたの、沙織お姉ちゃん?」
沙「…あははは!こりゃ、だめだわ。」
美咲の様子に沙織は笑い転げる。
美「そんなに笑うことないじゃない!」
美咲は膨れっ面で抗議するが、沙織はまだ笑い続ける。
美「えー!頑張ったのにぃ〜!なんでぇ〜?」
沙織はようやく落ち着くと美咲に謝る。
沙「あはは、ごめんごめん。」
美「むー。沙織お姉ちゃんが言えって言ったから言ったのにぃ!」
沙「だから、ごめんて。あまりに必死すぎて逆に可愛かったから、ついね。」
沙織は美咲に抱き付くと頭をなでた。
美「ふぇ!さ、沙織お姉ちゃん何するの〜!」
沙「ホント、美咲は可愛いなぁ〜!浩兄にあげるのはもったいないよ。」
沙織は美咲に頬ずりする。
美「ふぇぇ!沙織お姉ちゃんくすぐったいよぉ〜!」
沙「照れないの。あたしと美咲の仲じゃない。」
美「ふぇぇぇ〜!」
美咲の悲鳴がこだましたところで沙織は我に返る。
沙「…っと。美咲が可愛いからつい脱線しちゃった。とりあえず、この方法は逆効果だから失敗ね。」
沙織は美咲を放す。
美「…沙織お姉ちゃん、私をからかって遊んでない?」
美咲はジトーっと沙織を睨む。
沙「そんな事ないわよ。可愛い妹の為に言ってるのよ?」
美「…なら、いいけど。」
沙「うーん。美咲にキツい断り方をさせて、諦めさせるのがダメなら…。向こうから来る気を無くすように仕向けたらいいんじゃない?」
美「どうやるの?」
美咲は首を傾げる。
沙「浩兄と付き合ってる事を公言しちゃえば?」
美「それはダメだよ!浩輔お兄ちゃんに迷惑かけちゃうよ〜!」
美咲は両手をブンブン振って否定する。
沙「そうよね〜。美咲はモテるからね〜。浩兄が大変だわ。」
美「私、モテないよ〜。浩輔お兄ちゃんに迷惑っていうのはそうじゃなくて、神楽先輩は空手部だから…。」
沙「はいはい、わかったわよ。しょうがないわね〜。じゃあ、奥の手を使うしかないわね。」
美「へ?奥の手?」
沙「ちょっとえげつないから、あまり使いたくないんだけどなぁ。まぁ、可愛い美咲のためだし、しょうがないね。」
美「奥の手って何するの?」
沙「それは秘密。まぁ、お姉ちゃんにまかせときなさい♪」
美「むー。気になるよぉ!」
沙「いーから、いーから。それより、部活遅れるよ?」
美咲は腕時計を見る。
美「にゃー!もうこんな時間!部長に怒られちゃう〜!沙織お姉ちゃん、ゴメン!もう、行かなきゃ!」
沙「はいはい。いってらっしゃい。」
美「うん。沙織お姉ちゃん、また明日ね〜!」
美咲は部室棟に向かった。
沙「…ふぅ。とは言ったものの気が進まないのよねぇ。美咲も賛成はしないだろうし、あのバカ容赦ないからなぁ。あんまり過激な事しなきゃいいんだけど…。」
沙織はため息をつくと、力無く肩を落とす。
沙「でも、これが一番確実な方法だしね。えげつない方法を取らないなら真っ先に連絡したんだけどなぁ。あたしにもメリットがあるしね…」
沙織はケータイを取り出すとメールを打つ。
その相手は…。
第二章へ