─カランコローン

音に反応して、店員が出てくる。

店「いらっしゃいませ!お一人様ですか?」

雄「いえ、後であと一人き…」

─カランコローン

「あっ!二人です。」

その声に雄二が振り向くと、沙織がいた。

雄「早かったな。」

沙「バイトのミーティングが意外と早く終わったからね。」

店「二名様ですね。禁煙席と喫煙席のどちらがよろしいですか?」

沙「あっ、禁煙で。」

店「かしこまりました。こちらへどうぞ。」

店員に案内され二人は席につく。

店「ご注文が決まりましたらお呼び下さい。」

店員はマニュアル通りに案内を済ますとさっさと席を離れる。

雄「なんだって、ファミレスの店員てどこも似たようなマニュアル通りの対応すんのかね?」

沙「あんた、バカ?ファミレスの店員がマニュアル守らずにどんな対応すんのよ。」

雄「例えば…」

沙「例えば?」

しばしの沈黙が流れる。




雄「…出迎える時に『お帰りなさいませ。御主…』」

沙「それは、すでにマニュアル化されてるし、ファミレスじゃない。」

雄二が言い終わる前に沙織は雄二の言葉を遮る。

雄二は『コホン』と咳ばらいをすると、口を開く。

雄「…そ、そんなことより、とりあえずなんか頼もうぜ。オレ昼まともに食ってねぇから腹減った。」

雄二はメニューを眺める。

沙「あたしも。昼休みちょっと呼び出されてたからお昼食べそこねたんだ。」

雄「赤点は古典か?英語か?」

沙「あんたと一緒にすんな!陸上部で本格的にやるつもりはないか?って顧問に誘われただけだよ!」

雄「まだ誘われてたんか?高二の十月からで本格的も何もないと思うがな。」

沙「あたしもそう思う。だから、断った。」

雄(こいつ、昔っから運動だけはできたもんな。…頭はからっきしだけど。)

そんな事を考えているとお冷やを飲んでた沙織は「どうかした?」と言わんばかりに首を傾げる。

そこで沙織を見つめていたことに気付き視線を外す。

雄(…やべっ!今のはわざとらしかったかも)

意外と小心者な雄二はそんな事を考えていたが、沙織は特に気にした様子もなく会話を続ける。

沙「で、あんたは数学?物理?」

雄「はずれ。空手部の顧問に呼ばれてた。浩兄がしつこく推薦してるらしい。」

雄二は呆れ顔でため息をつく。

沙「あはは、浩兄まだ諦めてないんだ?あんたもやってあげればいいのに。一応、段持ちでしょ?」

雄「そりゃ、北川流古武術の徒手空拳は空手に通ずるモンがあるから、じっちゃんに奨められて初段はとったけどよ…」

沙「けどなによ?」

雄「ぶっちゃけ、めんどくさい。何か一つの物に打ち込むのって、俺に向いてないらしいわ。」

沙「…なに、その理由。」

雄「ん?まぁいいじゃねぇか。何かに打ち込むのはいい事だけどさ。それだけが有意義な学生生活ってワケじゃねぇって事だ。」

沙「…?」

雄「毎日バカな事やってバイトして友達と遊びたおして、たまには悪友と麻雀打ったり、ナンパしに行ったり。
そんな学生生活でも、本人が後悔しなけりゃ『有意義な学生生活』になるって事だ。」

沙「…。」

沙織は何も言わず、雄二を見つめていた。何も言えなかった。

雄「何、アホ面してんだ?注文は決まったんかよ?」

沙「アホ面とは失礼な!ちょっと感心したのに。」

雄「別にたいした事じゃねーよ。」

沙「そんなことないって。感心したのは嘘じゃないよ。」

雄「そーか?ありがとよ。それより早く注文決めろよ。店員呼ぶぞ。」

沙「あっ、うん。呼んでいいよ。」


呼出しボタンを押し、店員を呼ぶと、二人は注文を終える。

程なくして、注文の品が届く。

雄「で、大事な話ってなんだ?」

沙「んー。ご飯たべてからにしない?」

雄「…まぁ、いいけどよ。」

雄二はなかなか話を切り出さない沙織を、不審に思いながら食事を終える。


沙織が食事を終える頃には、雄二は既に二杯目の食後のアイスコーヒーが飲み終わっていた。

沙「…で、大事な話っていうのはね、なんて言うか言いづらいんだけど…」

沙織が言いかけたところで雄二は口を挟む。

雄「待った。その話って長くなるんだろ?先にドリンクバー持ってこい。」

沙「え?」

雄「話の途中でドリンクバー取りに行って、話の腰を揉まれちゃかなわんからな。」

沙「…揉んでどーすんのよ。折るでしょ?あんたこないだの中間テスト現国いくつ?」

雄「う、うるせー!さっさと取ってこい。」

照れ隠しに逆切れする雄二に、沙織は小馬鹿にしたように鼻で笑った。

沙「はいはい、行ってきますよ。」

沙織が席を立つと雄二が狙ったようにコップを差し出した。

雄「俺にコーラよろしく。ちゃんとコップすすいで、氷は二つな。」

沙「そのために、あたしにドリンクバー勧めたのね。あんた性格最悪。」

雄「なんとでも言え。『立ってる者は親でも使え。』ってな。」

沙「うわ、色んな意味でサイテー。」

雄「じゃ、よろしく。オレはその間にトイレ行ってくるからよ。」

沙「はいはい。わかったわよ。」

沙織は渋々ドリンクバーを取りに行き、雄二はトイレに向かう。


─ピリリリ!

雄「あん?電話?誰だ?」


次へ