北甲の国を出発した二人は草原をひたすら南に向かって歩いた。

雄「…なぁ、コクヨウ。」

コ「はい?何でしょう?」

雄「よく考えたら、お互いにロクに自己紹介もしてないよな?」

コ「そういわれるとそうですね。気付かなくて申し訳ありません。」

コクヨウは頭を下げる。

雄「だから、そんなに気にしなくていいって、もうちょっと気楽に行こうよ。コクヨウって歳いくつ?見た感じオレより年上っぽいけど。」

コ「二十歳です。雄二様は?」

雄「オレは昨日言ったと思うけど、十七。ねー、コクヨウ。」

コ「何でしょう。」

雄「出発するとき。呪術の心得があるっていってたけど何ができるの?」

コ「大地の精霊を式神として様々な事が出来ますよ。例えば…」

コクヨウがそこまで言いかけた時、背後に迫る気配がする。

コ「雄二様、危ない!」

コクヨウの言葉に雄二は伏せる。


─ドゴォ!


派手な音と共に雄二達の前方の地面がエグれる。

「ガアァァァーー!」

正面には熊のような体躯をした化け物が立っていた。

コ「我、北方の守護神が巫女コクヨウの名において命ずる!」

コクヨウが印を結ぶとその両手が光る。

コ「悠然なる大地の精よ、主を守りし強靭な盾となれ!」

コクヨウはそのまま地面に手をつく。

コ「地精霊式神術・第弐行の二節!『大地の盾』!」

コクヨウの言葉と共に地面が盛り上がると、雄二に向かって振り下ろされた化け物の爪を弾く。

雄「なっ!」

コ「雄二様!いきますよ!」

雄「お、おう!」

コ「『放珠』!」

コクヨウの言葉と共に玄甲珠は亀甲手に姿を変え、雄二の両腕を覆う。

雄「ハッ!」

雄二の正拳が化け物のミゾオチにメリ込む。

「グォォォ!」

化け物は後方に吹き飛ぶがすぐ立ち上がる。

雄「効いてねぇ!コクヨウ、こいつの急所とかないの?!」

コ「異形の者といえど、元は生き物です。急所は変わりません!」

雄「今、完璧にミゾオチにブチ込んだけど効いてねぇぞ!」

コ「おそらく厚い毛皮のせいでしょう、頭を狙ってください!」

雄「高すぎて届かねぇよ!」

コ「任せてください!」

コクヨウはすぐに印を結ぶ。

コ「我、北方の守護神が巫女コクヨウの名において命ずる!悠然なる大地の精よ、主に未来を示す道となれ!」

コクヨウはそのまま地面に手をつく。

コ「地精霊式神術・第参行の二節!『地に架かる橋』!」

コクヨウの言葉に地面が盛り上がると化け物をまたぐ岩の橋が架かる。

コ「この橋の上からなら!」

雄「よっしゃ!」

雄二は橋を駆け上がり化け物の上空から襲い掛かる。

雄「喰らえ!!」

雄二の叫びに応えるように亀甲手から溢れ出した闘気の光はそのまま全身を包む。

雄「ドオォーリャァー!」


─バキィ!


「グォォォー!」

脳天に雄二の蹴りを受けた化け物は無数の光の粒になって霧散した。

雄「っ!ヤベッ!着地…」

コ「我、北方の守護神が巫女コクヨウの名において命ずる!悠然なる大地の精よ、時に主を包む優しき褥(しとね)となれ!」

コクヨウはそのまま地面に手をつく。

コ「地精霊式神術・第参行の四節!『草原の寝床』!」

コクヨウの言葉に応えるように地面が光ると生えている草葉が落下する雄二を受け止める。

雄「…っ?!」

コ「雄二様、ご無事ですか?」
心配して駆け寄って来たコクヨウが雄二に声をかける。

雄「…ん?あ、ああ。」

雄二は草葉のクッションから立ち上がる。

雄「あの、さっきから起こってるこの現象は何?」

雄二はコクヨウに尋ねる。

コ「先程言いかけた呪術です。大地の精霊を式神として使役して大地を味方に付けることが出来るんです。」

雄「…すげえな。」

雄二が感心していると、コクヨウは首を横に振る。

コ「感心するような事では無いですよ。雄二様にも出来ます。」

雄「んな、ばかな。」

コ「北の守護神は大地を司る神ですから、大地の精霊を従える事が出来て当然です。雄二様はまだ神通力の使い方を知らないだけです。」

雄「どうやって使うんだ?」

コ「それは今夜お教えいたします。」

雄「何で夜なんだ?今、教えてくれよ。」

雄二の言葉にコクヨウは困惑する。

コ「本来なら聖獣山の麓に着いたとき、他の三人の巫女と結界を張ってから行うつもりでしたが…」

雄「でしたが?」

コ「異形なる者がここまで浸蝕してるとなると、そうも言っていられません。雄二様には到着するまでに『地精霊式神術』の第壱行までは会得していただきます。」

雄「第壱行?」

コ「はい。亀甲手の発現と制御に関わる術式です。それさえ会得すれば私には扱えない第壱行の術式も扱えますし、第弐行・第参行は亀甲手が応えてくれます。」

雄「それが夜でなけりゃダメなのは理由があるの?」

コ「制御できないと神通力が暴走する恐れがあるので、四人の巫女が張った結界の中でないと危険なのです。ですが…先程も申した通りあまり時間が無いようですので私一人で結界を張ります。」

雄「一人でもその結界って張れるのか?」

コ「月の魔力で私の精神力を高めればなんとか…。ですから夜でないと。」

雄「って事は今夜は寝てられねぇのか…。」

コ「それは雄二様次第ですね。」

雄「ヤな言い方しないでよ。」

コ「そんなつもりはありませんよ?」

コクヨウはクスクス笑う。

雄「意外とコクヨウって腹黒いな。」

コ「あら?肩の力を抜けとおっしゃったのは、雄二様ですよ?」

コクヨウはさらに楽しそうに微笑む。

雄「うぐっ。」

コ「さぁ、急ぎましょう。出来れば今日中にこの草原は越えたいですから。」

雄「ああ。」

コクヨウの言葉に答えると雄二も歩き始めた。





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